ユング心理学のシャドウ(影)とは「自分が生きられなかった反面かつ半面」であり、「過去に決別した自分自身」でもあります。
ペルソナとシャドウの違い
・ほかの人に「自分をこんな風に見てもらいたい」という自己の肯定的な側面を見せようとする仮面が「ペルソナ」
・反対に絶対に認めたくない自分の側面を「シャドウ」と呼びます
「自分の生きられなかった反面」を意識している人は実際あまりおらず、
しかし「自分の生きられなかった反面」であるシャドウ(影)は確実にあなたの中に存在し、あなたに影響を及ぼし続けるのです。
例
例えば、責任感のある人は幼少時代や過去に周囲からこんなこと言われて育ったかもしれません。
「責任を持て、無責任な人間になるな!」
「宿題は決められた期日にきちんとやりなさい!」
「自分で言いだしたからには最後までやり遂げろ!」
「泣き言を言うな」
などなど、このように親から責任を強く求められるような環境にいた人は、実際に責任感が強い大人になりやすいです。
もしくは自分自身で責任感のある人になろうと決めたのかもしれません。
そして、この責任感が強くなった人は、過去に「無責任で自由な自分」とは決別し、責任感のある自分として生きることを選択した、もしくはそのようなペルソナを作り上げたといえます。
しかし、自分では決別した「無責任な自分」という「シャドウ(影)」は自己に影響を与えることがあります。
例えば、この「責任感のある人」が新しく入ってきた新人の「無責任な一面」を見て必要以上に怒りを感じることがあるかもしれません。
これは身近な人に対して「自分の生きられなかった反面」である「シャドウ(影)」を投影しているから起こる現象です
必要以上にこちらに対して怒りや憤りをぶつけてくる人に対しては、
「あぁこの人は生きられなかった反面である自己をこちらに投影しているんだな」
と考えることもできますね。
シャドウによる「不快、批判」の他者投影
人は誰しも「人生をどういう自分で生きていくのか」を自ら選択し、反対に「自分の生きなかった否定した反面」がシャドウとなっていきます。
そして冒頭で言った通り、「過去に否定し決別したつもりの自分」であるシャドウはその存在を認めない限りずっと影が付きまとうことになります。
否定した側面とはいえ、シャドウはまぎれもなく自分自身だからです。
光あるところに影ができるように、自分とシャドウはコインの裏表だからです。
いじめ、他者攻撃は高確率で「自己の否定した反面かつ半面」を相手が持っている場合に引き起こされる場合が多いです。
これをシャドウの他者投影と言います。
例
・「感情を優先する人」に嫌悪感を感じる人は「過去に感情を優先する自分と決別した」自分のシャドウを投影しているからです。
・仕事に生真面目な人が怠惰でさぼりクセのある人に嫌悪感を感じるのは「怠惰な自分とは決別した」過去があるからです。
それらの決別した生きられなかった自己の反面であるシャドウは、決別したつもりが実はずっとあなたに影響を及ぼします。
本当は生きたかった自分であるシャドウ
シャドウは自分が生きられなかった反面であると同時に、「本当は自分が生きたかった自分」の場合もあります。
嫌い=うらやましい
しかし、ほとんどの人にその自覚はなく、シャドウを投影した相手に一方的に嫌悪感を感じ、自分が生きられなかった反面を持っている相手を「あいつが悪い」と嫌悪してしまいます。
この感情は恋愛においての「嫉妬」に近い感情のようだな、と個人的に感じています。
「お金は汚いモノ」
「あいつは金持ちだからどうせ鼻もちならない奴だ」
「金持ちは悪いことをしてお金を稼いでいる」
と強く感じている人は、
「本当はお金が大好き」
「家が貧乏でいつも友達のピカピカで新しい自転車がうらやましかった」
という自分の気持ちを抑えつけた結果、それがシャドウとなりお金持ちに自分のシャドウを投影しているといえます。
面白いことに「シャドウを投影した相手を嫌いな理由が自分の中にある」とは考えない人が多いです。
「相手が一方的に悪い」
まさに恋愛関係にある男女が、他の異性と話しているのを見てパートナーに抱く「嫉妬」の感情に似ていますね
そしてこの行き過ぎたシャドウから生じる怒りはものすごく多くのエネルギーを使用します。
投影したシャドウに怒りを感じることは、自分を攻撃しているようなものなので、
その結果慢性的に不安定で、あまり健康的とは呼べない心理状態に陥ります。
シャドウとの付き合い方
では一体自分のシャドウとどう付き合えば良いのか?ですが
まず、シャドウである自分と決別することはできないと知りましょう。
ユングによると、シャドウやシャドウを投影することは一概に悪いコトではなく、時に自分の中のエネルギーとなり原動力にもなるためプラスに働くことも多いと言います。
とはいえ必要以上のシャドウによる怒りのエネルギーは自己が疲弊してしまうことになりかねず、
また周囲の人と上手くやっていくことが難しくなることもあります。
次にシャドウとの付き合い方を紹介します。
投影の引き戻し&個性化
シャドウと上手く付き合うためには、「投影の引き戻し」が有効です。文字通り自分が相手に投影しているシャドウを引き戻すのです。
具体的には、怒りを感じる相手や攻撃をしてしまう相手に「自分がシャドウを相手に投影している」と認識すれば良いです。
「必要以上に相手に怒りを感じている、もしかしてシャドウを相手に投影しているのかも…?」
そう認識するだけで「相手に感じているイラつきや怒りは自分の中にも存在しているのかも…」と受け入れられるようになります。
シャドウによる感情の揺さぶりは、「もっと君は成長できる」という自分のシャドウからのポジティブなメッセージです。
シャドウを引き戻し、そして認めシャドウを自分の個性とすることで、さらに自分の性格や人格が次の段階へと成長できます。
自分のシャドウを観測する方法
ところで、シャドウの投影を引き戻すにしても、どれが自分のシャドウであるかを把握する必要がありますよね?
そこで、自分のシャドウを観測する方法ですが、
大きく分けて2つの方法があります。
①人に怒りを感じるパターンを把握する
②夢に登場するシャドウを観測する
①は「どういったときに相手に怒りやイラつきを感じるか?またその相手に怒りを感じているのは自分だけか?」を観察すればシャドウを観測できます。
②の夢に登場するシャドウを観測するとは次の通りです
夢に登場する自分のシャドウ
時折シャドウは不快な夢として登場します。
罵られる夢や、嫌いな人が出てきてとても不快な気分にさせられて朝起きることってありませんか?
「嫌な夢をみてしまった…」
ユング心理学の専門家河合隼雄先生によると、夢に出てくるシャドウは同性かつあなたの嫌いなタイプ、として登場することが多いと言っています。
例として、河合隼雄著の「ユング心理学入門」に赤面恐怖症の男性が登場します。
この男性はとても繊細であり、それ故に「攻撃的で意地悪なことは大嫌い」という性格をしています。
その男性が見た夢にシャドウが出てくるんですが、その夢は下記のようなものでした↓
教室で勉強をしている。数学の時間で先生が私に質問をする。私は答えようとするが、全然思いつかない。先生は非常に意地悪い顔つきで、こんなものがわからないのかといい、しまいには「君はいつもこんな調子で、結局は顔は赤くなるし、物はいえないし」という。他の学生たちまで、それに呼応して、「赤くなる!」とか「何もできない!」とか叫び出して、私は冷や汗を流して、目を覚ます。
引用:河合隼雄「ユング心理学入門」
この男性は過去に「権威的で攻撃的な自分」を否定し決別したため、それがシャドウとなり「同性の権威的で攻撃的な先生」としてシャドウが夢に現れました。
このように「自分と同性かつ嫌いな人」が夢に出てきて、「とても嫌な夢だ」と感じた場合それがシャドウである可能性が高いです。
そしてその赤面恐怖症の男性は自分の中の「権威的で攻撃的なシャドウ」と向き合い、それを受け入れ個性化することで赤面恐怖症を克服していきます。
まとめ
シャドウは「自分の生きられなかった反面かつ半面」であり、時に不快に感じることもありますが、
シャドウはあなたの成長のためにメッセージを送ってくれる存在でもあります。
シャドウを受け入れさらなる自己の成長として生かしてみてください。
ユング心理学おすすめの本
ユング心理学を学びたい方は河合隼雄著の「ユング心理学入門」がおすすめです。
複雑なユング心理学も一般人が理解できるレベルまで落とし込んでくれています。
余談ですがこの本を中古で買うことはお勧めしません。1967年に出版された本なので、アマゾンで中古本を買うと高確率でボロボロの本が送られてきます。
僕は中古でこの本を2度ほど買いなおしましたがどちらもボロッボロな本が送られてきました。出版年が古い本をAmazonで購入する場合新品で購入するのがおすすめです。